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今回はこの文章の一番の目的である「四元数を用いた3次元回転の表現」についてがテーマです。まずは四元数の積の構造を崩さないような変換がどのような形になるのかを見た上で、それの特別な場合が鏡映変換になることを示します。次に回転を鏡映変換の合成として考える方法を解説します。そしてそれをもとに回転を四元数で表す方法を作ります。
いま四元数の中での変換として次の2つの条件を満たすものを考えます。
2つ目の条件について少し考えてみましょう。たとえば、四元数を単純に掛けただけの変換を考えると、これは第1の線型性は満たしていますが、掛ける四元数をとおくと(つまり)、
(1) |
(2) |
いま、あるベクトル を単位ベクトルに相当する純四元数 で合同変換するとどうなるか調べてみましょう。
まず第1段階、
(3) |
(4) | |||
(5) |
スカラー部については、 がと直交するので0になります。
ベクトル部については、ベクトル3重積の公式 を用いて、
(6) |
(7) |
これの幾何学的な意味を考えてみましょう。分かりやすいように正負を入れ替えて について考えます。
単位ベクトルとの内積はその方向への射影を表しますから、 はベクトルをの方向に分解したベクトルになります。よって、 であればをと直交する方向へ分解したベクトルになるはずです。いま考えているベクトルはさらにもう一つ を引いたものですから、これはと垂直な平面での「鏡映変換」になっています(図参照)。
つまり、純虚四元数での合同変換は鏡映変換を表すということが分かりました。
ただし、途中で正負を入れ替えていますから、となっていることに注意してください。
この節では幾何学的な考察を少し加えます。
異なる二つの平面による鏡映変換を合成することを考えます。
図を参照していただきたいのですが、二つの平面があって、それぞれの法線ベクトルを とします(図では法線ベクトルは省略しています)。このとき、2つの平面のなす角(それはそれぞれの平面の法線がなす角でもある)をとおきます。
元のベクトルが最初の平面となす角をとおくと、2つ目の平面とベクトルがなす角は です。よって、と平面の角も同じく です。また、平面と元のベクトルのなす角は です。よって、とがなす角は になるわけです。
このことを四元数で表現してみましょう。
鏡映変換は合同変換によって表されたので、その合成は、
これは、 とおけば、 ですから、先のを用いて と書けます。ここで はとに直交する方向の単位ベクトルで、回転軸方向を表すベクトルです。符号と外積の順番に注意が必要です。マイナスが付きますが、合同変換の式にいれるとマイナスが2つになってキャンセルするので、負号の存在は変換の結果に影響を与えません。これがの回転を表すわけですから、の回転をさせたい場合は、
前節までの「鏡映変換の合成としての回転」は、式(8)を用いた合同変換というのを天下り的に提示することに抵抗があってその導出のようなことをやってみたわけですが、直接これが回転を表していることを示しましょう。
(9) | |||
(10) | |||
(11) | |||
(12) | |||
(13) |
(14) | |||
(15) | |||
0 | (16) |
次にベクトル部を計算しましょう。
さて、この最後の式がベクトルの回転を表していることを確認してみましょう。以下、簡略化のために、それぞれのベクトルに、
(23) | |||
(24) | |||
(25) |
(26) |
以上の計算により、実際に合同変換がベクトルの回転を表していることを確認できました。
さて、これで四元数の話はほとんど終わりました。次回は全体のまとめとして少し物理との関連を書いておきたいと思います。といっても当初予定していたパウリ行列の話をすでに書いてしまったので、ネタがないというのが現状です。ネタの準備に少し時間がかかるかもしれません。