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サンマヤ
最終更新 2012/5/2
90年代中盤、私がまだ大学生1年生だったころ、共通過程の線形代数の授業。担当の教授は変わったことばかり言うひとでしたが、その中で一番印象に残っている言葉があります。それは、「複素数というのは、ある夜、屋上から、広がりたい、広がりたい、という数の声がきこえてできたのです」、というものでした。「面白い先生だなあ」と思ったものですが、その教授が世界で数人しかいないワイルによる「フェルマーの定理」の証明を検証できる数学者ということを知ったのはもう少しあとのことでした(すぐ後、教授は別の大学に移ってしまったのですが)。
この文章の目的は、大きく二つあります。1つ目は、数学の基本にある実数論についての解説することです。高校の数学では実数というものが最初から与えられていて、それを有理数と無理数に分ける、というような説明がなされます。しかし、これではきちんと「実数」というものが何なのかを定義してはいません。そこで、自然数から出発して、有理数、実数と「数が広がっていく」過程を解説していきたいと思います。
2つ目は、さらに進んで、実数から虚数・複素数へと広がっていく過程をみることです。ここには代数学の基本定理の解説も含まれることでしょう。そして、虚数単位とは一体何者なのか、という問いへの一つの答えへと迫ってみたいと思います。さらには、その先にある「四元数」について考えます。物理学においてその名を残すハミルトンがその生涯をささげた「四元数」とはどういうものか。複素数の先にあるものとしての四元数を考えます。
なぜ四元数なのか、という理由は2つあります。一つは、DirectXなどでも四元数を用いた回転の表現が使われていることです。おそらく、四元数がいったいどういうものなのか、理解して使っている人はほんの一握りだと思います。
もう一つの理由はこのサイトにこういった文章を載せていこうと思った動機の一つでもあります。それは量子力学で出てくるパウリ行列とは何者なのか?ということです。四元数とパウリ行列に関係があるのではないか、「因数分解」できるとはどういうことなのか、ということを考えてみたいと思います。
おそらく、今回の一連の記事では、四元数とパウリ行列の関係まで到達できないでしょう。そこまでいくにはさまざまな数学的な道具立てが必要になってきます。ですが、その入り口にある考え方については見ることができると思っています。
これは、今後書いていこうと考えている数学・物理学の準備的な文章です。ここでは解析学と代数学、双方の土台部分を概観することができればと考えています。一応、高校レベルの数学から理解できるように書くつもりです。高校レベルの数学に出てくることは省略することもあると思いますので、分からないことは高校の数学の教科書や最近増えている「今からやりなおす○○」のような本で勉強することをお勧めします。
2011年12月13日追記。
実際に書いてみて、話の展開をもう少し多角的にしたいと思い、執筆予定の章構成を変更。群論・抽象代数学の話題を入れ、複素数と四元数の大きな違いである「非可換性」に焦点を当てる予定です。Lie代数というか、回転の表現論みたいなことにも言及したいという気持ちはあるのですが、なるべく今回は解析的な観点は用いない範囲でどこまでやれるかやってみたいと思います。またこれまで中学・高校レベルでも理解できるように書いてきたつもりですが、11章以降は少し専門的な話が入ってくると思います。
2012年2月15日追記。
抽象代数学の章を書いていたら、やはりリー群の話をせざるを得なかった。というか、四元数と深くかかわる回転について、表現が一つではないということを2次元を例にしてしっかりと書いておくことが、今後の展開上必要と考えたのです。これは特に3次元の回転や、4次元におけるローレンツ群などとの関係でスピンを考えるときにも重要なポイントとなります。さて、これからが本番。やっと四元数の話に入ることができます。
この変更で、あまり議論と関係ない環・体についての話は省略。また、章構成も若干変更(副題のみ)しました。
2012年3月4日注意書き
第9回の記述で、四元数ではx^2=1が無限に解をもつと書いてしまったが、これは誤りでした。第9回のTeXファイルを間違ってクリアしてしまったため、すぐには訂正できませんが近いうちに訂正します。また、そろそろ章構成も全体的にかたまってきたので、PDF版も配布できるように準備を進めています。LATEX2HTMLの出力がいまいちきれいじゃないので・・・
2012年3月5日注意書き
第9章の内容を復旧させ、訂正しました。
2012年5月3日
第12章まで書けたのでとりあえずのバージョンとして全部含めたPDFファイルも公開します。
第12章のHTML化の際に数式の画像がおかしくなったのを直すのがめんどくさい、というのもあります(^^;
ただし、文章に誤植・間違いがいくつか残っています。暫定版ということで、漸次改訂版を出していきたいと思います。
第1章〜第12章のPDFファイル math1-all.pdf
目次
1-13.複素数・四元数なんて本当にあるのか?―量子力学・スピンと四元数