特殊相対論のページ
作成 2013/06/02 最終更新 2018/08/08
 世の中に相対性理論について書かれた文章はたくさんあります。その中には、いろいろな書籍もあり、図やイラストを中心にして素人にも分かりやすく説明しようと腐心された労作もあれば、相対論の基本的な部分は前提として、論理的かつ簡潔に議論を構成していくようなものまで様々です。一方で、世の中に「相対論は間違っている」と主張する本もたくさんあります。現代において、ここまでアンチの多い科学理論というのもほかにはないのではないでしょうか。このようなところに、なぜわざわざ自分が駄文を書いて付け加えようと思ったのか。どういう方々を想定してこのような文章を書こうと思ったのか、というところについて述べておきたいと思います。

 一つ目に、自分の理解の整理のためというのがあります。いちおう、自分は物理学を専攻として大学を卒業し、もちろん相対論については理解したと思っていました。しかし、ローレンツ変換や基本的な相対論の帰結について理解したつもりでも、ひとつひとつの事柄をきちんと説明しようとなると色々と理解が不確かな部分が多いことに気づきました。そういう部分をきちんとまとめておきたいというのが初発の動機です。とくに、相対論の論理的な構成を自分なりに整理したいと思っています。

 二つ目に、ローレンツ変換の性質についてもっと掘り下げておきたいというのがあります。ローレンツ変換は、見た目は1次変換の形をしており非常に簡単に思えます。しかし、行列の積は交換しないという数学の基本的なことがらから、ローレンツ変換は普通の座標変換のようにはいきません(なじみ深い平行移動や2次元の回転は交換します。しかし、同じ回転でも3次元になると交換しなくなります)。また、よく知られているように相対論の時空では、「長さ」の計算に負の係数が現れる「双曲型」の幾何学になります。これのユークリッド空間との違いも注意しておきたいところです。

 三つ目に、相対論的力学の構成について、なるべく前提や仮定を置かずに、どこまで論理的に作ることができるか、ということを突き詰めてみたいというのがあります。ローレンツ変換に対する変換性から式の形を仮定する方法も、確かに美しい方法ではあるでしょう。ですが、あえて物理的にどろくさく考察して、力学の基本に立ち返りながら相対論において力学がどのような形になるべきか議論を組み立てていきたいと思います。その中では「質量」や「力」の概念についての再考も行われるべきでしょう。

四つ目に、世の中の「相対論は間違っている」という議論に対して、一定の自分なりの解答を提示したいというのがあります。そういう議論をひとつひとつ取り上げていくことはしないかもしれませんが、相対論に対する誤解をもとに批判しているものが多いという印象があるので、そういう誤解を解くことを意識した作りにしていきたいと思います。

以上のような動機でこの文章は書かれるので、「誰にでも分かる」とか「相対論入門」ということを標榜するつもりはありません。むしろ、一度相対論を学んで一通りは理解した、と思っているような方に読んでもらいたいと思います。その上で、ご感想やご批判をいただければ幸いです。

2013/12/22 全体を3部構成にしました
2014/07/01 全体を4部構成にし、電磁気学の部をアップ開始。
2018/09/01 最後の第15章をアップ。不足はあるが、一応の完成。

第I部 相対性理論の運動学

第1章 相対論はどのようにして生まれたか?
1.1 20世紀初頭の物理学に立ちはだかった壁
1.2 1905 年:アインシュタインの3 つの論文
1.3 物理学における2 つの潮流

第2章 電磁気・光学現象と観測者の運動
2.1 光の正体をめぐって
2.2 電磁気現象の「相対性」
2.3 電磁気学の整備とローレンツ電子論
2.4 「光速度不変の原理」:論理の転回

第3章 特殊相対性理論
3.1 特殊相対性理論の2 つの柱
3.2 「同時刻」をどう決めるか
3.3 空間と時間の相対性
3.4 ローレンツ変換の導出

第4章 ローレンツ変換の数学的性質
4.1 ミンコフスキー時空
4.2 同じ方向のローレンツ変換の合成−速度の合成則
4.3 群としてのローレンツ変換
4.4 一般の方向へのローレンツ変換
4.5 異なる方向へのローレンツ変換の合成
4.6 異なる方向の速度の合成

第5章 ローレンツ変換の帰結
5.1 ローレンツ変換と光の伝わり方
5.2 光のドップラー効果
5.3 光行差
5.4 フレネルの随伴係数の相対論的説明
5.5 走る箱がどう見えるか
5.6 スターボウ‐宇宙旅行の風景
5.7 双子のパラドックス
5.8 まとめ

第II部 相対性理論の力学

第6章 相対論的力学
6.1 力学の法則をどう表現するか−相対性原理とテンソル
6.2 F = ma の意味を検討する
6.3 質量はスカラーか?
6.4 力について
6.5 エネルギーと運動量をどう定義するか?
6.6 相対論的運動方程式

第7章 質量とエネルギーの等価性
7.1 慣性は運動に伴って増大する
7.2 光子エネルギーの持ち去る質量
7.3 光子が質量を運ぶ.
7.4 物体の衝突と質量の変化
7.5 質量欠損
7.6 気体の熱エネルギーと質量
7.7 重力質量
7.8 まとめ

第8章 解析力学による相対論
8.1 作用としてふさわしいものは何か?
8.2 相対論的なラグランジアン
8.3 相対論的運動方程式を導く
8.4 相対論における運動量とエネルギー
8.5 時間座標でのラグランジュ関数とハミルトニアン

第III部 相対性理論と電磁気学

第9章 電磁場のローレンツ変換
9.1 「場」概念の必要性
9.2 マクスウェルの方程式とポテンシャル
9.3 電荷・電流密度の変換と電荷の保存
9.4 電磁場の変換
9.5 電磁ポテンシャルの変換
9.6 ローレンツ力の変換性

第10章 電磁場の共変形式
10.1 電磁場テンソル
10.2 マクスウェル方程式の共変形式
10.3 ローレンツ力の共変形式
10.4 電磁場の解析力学
10.5 電磁場のラグランジュ関数

第11章 電磁場のエネルギーと運動量
11.1 ミンコフスキー時空における積分と積分定理
11.2 ミンコフスキー時空における保存則
11.3 物質のエネルギー・運動量テンソル
11.4 電磁場のエネルギー・運動量テンソル
11.5 作用・反作用の近接作用論的解釈

これ以下は今後予定している内容です。

第12章 相対論的電磁気学の帰結と限界
12.1 磁場の相対論的解釈
12.2 変位電流の正体
12.3 古典的な電子モデル
12.4 制動放射
12.5 古典的電磁気学の限界点

第IV部 加速度系の相対論

第13章 非慣性系のローレンツ変換
13.1 一定加速度による運動
13.2 双曲線運動する系からみた座標系
13.3 リンドラー計量
13.4 計量が変化する場合における「同時性」
13.5 計量が変化する場合の相対論的力学

第14章 回転座標系の相対性理論
14.1 エーレンフェストのパラドックス
14.2 回転座標系の計量
14.3 サニャック効果
14.4 回転座標系の力学
14.5 まとめ

第15章 スピンの古典論
15.1 ゼーマン効果と初期量子力学の課題
15.2 「スピン」は古典的に記述可能か?
15.3 等速円運動する座標系
15.4 スピンの古典論的描像
15.5 相対論は奥が深い

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